カナダ中銀は据え置き。追加利上げに向かう姿勢を示すも、実現は依然不透明
カナダ中銀は予想通り政策金利を1.25%に据え置き
5月30日に開催されたBoC(カナダ中銀)は、大方の予想通り政策金利を据え置きました。イタリアの政情不安まっただなかでイタリア国債の崩壊がどうなるか怪しいタイミングでした。そのようななかで据え置き自体は予想通りでしたが、内容は全体的にタカ派でした。
声明文では、世界経済については、概ね4月のMonetary Policy Report(MPR)時点の見通しに沿っているとの評価です。最近のデータでは米国経済がややアップサイドにポジティブ、しかし、貿易政策の不透明感が世界のビジネス投資を抑制していると指摘しています。また、地政学的リスクを背景とした原油価格の上昇についても4月のMPRでの予想時点よりと高いとしています。
カナダのインフレについては、短期的に4月のMPRでの見通しよりも若干高くなると指摘しています。原因はガソリン価格の上昇で、コアのインフレ指標は2%で推移していると指摘し、ガソリン価格の上昇による一時的な上昇との評価です。
カナダ経済については、4月のMPR以降のデータは概ね予想に沿ったものとの評価です。第1四半期の成長は、輸出の強さにより予想よりも僅かに強くなった、機械設備の輸入からは投資の回復が続いていることが確認されるとの評価となっています。住宅の販売活動の軟化は第2四半期にかけても残っていて、引き続き住宅ローン規制強化の影響が残っている。先行きについては、堅調な労働市場を背景に、住宅活動は回復してくるとの見通しとともに、個人消費が引き続き2018年の成長をけん引するとの見通しを示しています。
今後の金融政策については、4月以降のデータを含め全体として、より高い金利がインフレを目標に維持することにつながるとの見通しを示しています。今後のデータを含めて、徐々に金融政策を調整していくアプローチをとるとの方針を示しています。金利変化の経済への影響を注視していくとのことです。
声明文の文言に追加利上げに向かう重要な変化
今回の声明文にはいくつか重要な変化が見られました。
明らかに、次回7月11日の追加利上げに向かう文言の変化ばかりです。
①労働市場のスラック(たるみ)に関して評価していくとの文言が削除
これまで使われてきた労働市場のスラックを指摘する箇所がありませんでした。労働市場の評価について自信を深めているものと思われます。
②インフレに対する金融緩和の必要性を指摘する文言の削除
前回の声明文では「 This progress reinforces Governing Council’s view that higher interest rates will be warranted over time, although some monetary policy accommodation will still be needed to keep inflation on target. 」と表記されていましたが、今回の声明文では「Overall, developments since April further reinforce Governing Council’s view that higher interest rates will be warranted to keep inflation near target. 」のみとなっていて、金融緩和のインフレに対する必要性を指摘する文言が削除されています。
③将来の金融政策に関して「慎重に」見ていくとの文言の削除
前回の声明文最後にあった「Governing Council will remain cautious with respect to future policy adjustments, guided by incoming data.」という文言が削除されました。
④より高い金利が必要という従来からの方針部分の「over time」の文言が削除
上述した前回声明文の「 This progress reinforces Governing Council’s view that higher interest rates will be warranted over time, although some monetary policy accommodation will still be needed to keep inflation on target. 」にあった「over time」という表現が今回の声明文では削除されました。より自信を強めているということかと思います。
⑤金融政策を徐々に進めていくとの文言の追加
今後の金融政策についての段落から、慎重姿勢が抜けて、非常にシンプルになりました。今後の金融政策の進め方については、「gradual approach」がとられるということで、足元の経済評価について自信を深めつつ、最新の情報に沿って段階的に金融政策の調整を進めていく方針が示されました。
「Overall, developments since April further reinforce Governing Council’s view that higher interest rates will be warranted to keep inflation near target. Governing Council will take a gradual approach to policy adjustments, guided by incoming data. In particular, the Bank will continue to assess the economy’s sensitivity to interest rate movements and the evolution of economic capacity.」
市場の反応
カナダ中銀が利上げに向かう姿勢を示したことで、カナダドルは対ドルで発表前1.30付近だったところから一気に1.28台半ばまでカナダドル高となりました。発表前までに原油が高値から5ドル程度調整していたことや全般的な米ドル高のなかでカナダドルも1.3台まで下落していましたが、BoCの発表後はカナダドル高に振れました。
しかし、BoCの発表が5月30日、翌5月31日には米国が6月1日からEU・カナダ・メキシコに対して鉄鋼・アルミニウムの関税発動を発表(適用猶予を6月1日から打ち切ると発表)、それぞれ早速報復を発表、EUは米国をWTOに提訴しました。
この5月31日の米国の発表を受けて、カナダドルは1.29台半ばまで反落しています。
カナダ中銀の追加利上げの可能性
カナダ中銀は次回7月の利上げを視野に入れています。
しかし、関税を巡る応酬を見ても明らかなように、非常に深刻な貿易摩擦の問題が浮上しています。7月時点のMPRでは、貿易摩擦による不透明感が残っているものと思われます。
ブルームバーグ:EU・カナダ・メキシコが報復措置、米鉄鋼・アルミ関税発動で
カナダ中銀の追加利上げには他にもたくさんの不透明要因があります。
6月1日に首脳会談(6月12日)の実施が発表された北朝鮮情勢やNAFTA再交渉、ドル高で混乱がみられる新興国市場、イタリア・スペインの政局など、不透明要因は非常に多くあります。
ブルームバーグ:トランプ大統領:米朝首脳会談、6月12日にシンガポールで開催
最大のポイントは、6月のFOMCで今後の米国の利上げペースについて何らかの変化があるかだと考えています。
米国が段階的な利上げを続ける限りにおいて、カナダもスムーズに段階的な利上げを進められるものと思いますので、FOMCの利上げペースが最近の混乱でトーンダウンするようだと、カナダの利上げペースも緩やかなものになると考えざるを得ません。
7月のカナダ利上げを考えるにあたって、まずは6月のFOMCを評価していくことになります。
2件のフィードバック
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[…] 7月の利上げは、5月のBoCで利上げに向かう姿勢が示されたことから自然なことかもしれませんが、その後の経済指標は弱いものばかりでした。 […]