カナダ中銀(BoC) MPR(2018年1月)カナダ経済概況
カナダ中銀が2018年1月に公表した四半期金融政策報告書のカナダ経済の部分を要約しました。
経済の現状についてはポジティブな評価ですが、現時点でインフレ見通しが安定的であることや、NAFTA再交渉の影響を懸念していることなどから、しばらくは様子見となるのかもしれません。
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カナダ経済の現状評価
カナダ経済は2017年に力強く成長して、経済活動はCapacityに近い水準に達している。経済成長は当面は平均2.5%となることが予想され、その後は潜在成長率程度に鈍化すると見込まれる。
経済活動は依然として緩和的な金融政策、公的なインフラ支出によって支えられている。家計支出からの成長寄与は、最近の堅調な雇用増や家計収入が減速することが見込まれることから、減少が予想されている。その間に、輸出や投資が外需を背景に上昇することが期待される。これらの想定される需要構成の変化によって、経済がより安定的な状態に進展することが期待される。
GDPを構成する要素は10月から好調さを増している。輸出の見通しは好調な米国経済と商品価格の上昇によって改善している。
しかし、NAFTA再交渉による不確実性が強まっており、投資や輸出見通しの重しとなっている。
カナダ経済は2017年に3.0%成長したと想定される。力強い成長は潜在成長率に近く、明確な労働市場の緩みの解消を伴っている。
GDP成長率は2018年に2.2%に、2019年に1.6%に減速することが見込まれている。
CPIは、ガソリンや自動車の価格上昇を受けて11月に2.1%上昇した。インフレ率は、ガソリンや電気、食料品など、様々な一時的な要因によって短期的に変動することが予想される。
インフレ率は予想される範囲で2%近くにとどまることが想定される。
潜在成長率の改善が主要な課題
カナダ経済はCapacityに近づいており、BoCは力強い需要によって企業が投資を増やし、起業家が新企業を作り、人々が労働市場に参加、もしくは労働時間を増やすかどうかを評価している。これらすべての進展が潜在成長率の力強い伸びにつながる。さらに、BoCは潜在成長率とインフレ圧力の関係を評価するためにグローバリゼーションやテクノロジーからの示唆を含む賃金とインフレ率の動きを慎重に観察している。
2017年10月からのデータの改訂によって、投資の水準は2014年から依然の推計を上回っていたことが示されている。これらの力強い数値は、より大きな資本ストックとより多くの生産余力を意味する。結果として、2017年第3四半期の潜在成長率は、前回10月時点よりも0.2%改善している。
投資の伸びは2017年に再開
投資は2017年に生産余力を拡大し、これは公共インフラ投資によって強化された。2017年の上半期、投資の伸びは堅調な幅広い回復となった。第3四半期も堅調に推移し、機械設備への投資も寄与した。
労働市場の緩みは予想よりも早く吸収されている
余力の乏しさは、企業に雇用の増加を促してきた。産業、地域を越えた力強い雇用増の結果、全体の失業率は歴史的な低水準に低下している。平均労働時間は2017年初から回復していることが示されている。Business Outlook Survey労働力不足は1年前より強まっていることが示されている。
賃金の上昇が改善するなかで、基調的な賃金圧力は緩やかにとどまっている。過去数カ月の急速なペースでの雇用増と失業率の低下は、労働市場の緩みが想定されていたよりも早く吸収されていることを示している。しかし、最近の最低賃金の上昇にも関わらず、いくつかの要因が賃金上昇を抑制することが想定される。
高い長期失業率や比較的低い若年層の労働参加率は自然な労働力の増加を上回る追加的な労働力となる。BoCの、幅広い労働市場の改善を捕捉する労働市場指数では、失業率を下回る低下となっている。さらに、アウトソーシングや自動化につながりやすいグローバルな競争が賃金成長の重しとなっている可能性もある。
コアインフレは、2017年半ばから全体的に上昇を続けていて、11月には1.5%〜1.9%のレンジとなっている。この緩やかな上昇の動きは経済の緩みの減少と緩やかなインフレ圧力の高まりと一致している。
金融環境は依然として緩和的
金融環境は全体として安定的だった。最近の金利上昇にあっても、カナダの金融政策のスタンスは依然として緩和的で、経済活動を支えている。政策金利の7月と9月の引き上げは短期金利の上昇につながった。
短期金利の上昇と比較的安定している長期金利の結果として、カナダのイールドカーブはフラット化している。フラットにングにも関わらず、イールドカーブは依然として緩やかな右肩上がりを維持している。
Business Outlook SurveyとSenior Loan Officer Surveyによると、より高いプライムレートのほか、企業の借入環境のどちらも、依然として概ね変わらずか僅かに緩和している。
家計消費は減速が予想される
消費は、当面は力強い雇用増と消費者信頼感の上昇に支えられて成長に寄与することが見込まれる。しかし、2018〜19年には、消費の成長は緩やかになり、緩やかな可処分所得の伸びと高い金利によって貯蓄率が上昇することが予想される。高い金利が債務返済費用の上昇につながることで、最近の支出の牽引役であった耐久財の消費減につながる。
高水準の家計債務は、債務返済費用の増加によって支出を削減せざるをえない借り手の制約によって、高金利の影響を受けやすくなる。金利に対する消費の感応度の上昇は、10月からBoCの予測モデルに組み込まれているが、これらの消費行動がデータに現れてくるか判断するのは時期尚早である。もしこの高い感応度が実現しなければ、消費は予想よりも高まる可能性がある。
輸出は予想される期間において上昇が見込まれる
輸出の伸びは再開し、海外の需要に沿って成長が見込まれる。輸出拡大の進展は、想定どおり2017年の第3四半期には年前半に成長を加速させた特殊要因であった自動車生産の調整によって急減速した。輸出の伸びは、消費財や機械、設備の反発によって第4四半期に再開した。それにもかかわらず、2017年の輸出は10月時点のレポートよりも弱い。
予想期間を通じて、サービスと資源の輸出は堅調に推移すると見込まれる。自動車関連の非資源商品の輸出は概ね海外の需要に沿って成長することが見込まれる。
米国の税制改革を主因とする同国の経済成長の上方修正は、予測期間において輸出水準を1%押し上げることが見込まれる。
しかし、グローバルな見通しの改善から利益を得るには貿易条件を巡る不透明感が妨げとなっている。この不確実性はカナダとその他の国の投資、そして輸出の見通しにネガティブな重しとなっている。その貿易政策の不透明感による波及効果は、2019年末までに0.7%と見込まれ、10月に予想されていたよりも0.3%高い。
インフレ見通し
CPIのインフレ率は、2017年の第4四半期に1.8%となる見通し。過去数四半期は、電気代の払い戻し、平均以下の食料品のインフレ率や為替レートの推移などの一時的な要因によってインフレが目標以下に抑えられていた。
インフレ率は2%に近くなると想定される。一時的な要因による影響は、異なる時間枠のなかで解消していくことが見込まれる。特に、インフレ率は、昨年の一時的なガソリン価格の上昇の影響によって2018年1月に緩和することが見込まれる。そしてその後は過去の電気代と食品価格の影響が薄れていくに連れて上昇することが見込まれる。
食品価格の緩みは2018年第4四半期に解消されると見込まれる。食料品店の激しい競争問題への対策が徐々に進む中で当初予想していたより3四半期後ずれする。
昨年10月のレポートと比べると原油価格の上昇が2018年のインフレ率を押し上げると込まれる一方、インフレ率に影響するその他要因はほぼ変わらずである。インフレ率の予想は最近と今後予定される各州の最低賃金の引上げの影響も織り込んでいる。
インフレ率の予想は安定している中期及び長期の期待インフレ率とほぼ一致する。昨年12月に発表された2018年CPIインフレ率は1.9%、そして四半期毎の長期インフレ期待調査では、2027年までの平均インフレ率は2.0%と予想される。
インフレ予想のリスク要因
現在最も重要視しているのはNAFTA再交渉を巡る問題。インフレ見通しのメインシナリオではこの問題を背景とした企業の設備投資や輸出の動向の不安定要素も織り込んではいるものの、基本的には現在の貿易協定が引き続き存在することを前提としている。
現在米国からの輸入の50%は様々な産業に渡ってNAFTAからの恩恵を受けている。NAFTAはほとんどのサービスをカバーしている。現時点で、NAFTA再交渉の結果や時期、影響の大きさを予測することは困難である。
NAFTAが存続することを前提に、インフレ見通しに関するリスクは概ねバランスしていると評価している。
⑴カナダの輸出減速
⑵潜在成長率の想定外の伸び
⑶米国経済の予想を上回る成長
⑷消費の伸びと家計債務の伸びによる脆弱性の拡大
⑸高騰する住宅価格の顕著な下落
住宅市場の不均衡は、特にトロントエリアとバンクーバーで依然として残っている。住宅価格の下落によって、住宅投資と関連する消費が抑制されるだろう。過去の経験によれば、他の地域への直接的な影響は軽微となるだろう。