カナダ中銀(BoC) MPR(2018年4月)カナダ経済概況
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カナダ経済の現状評価
カナダ経済の成長率は鈍化したが、経済活動は潜在成長率に近い水準にある。経済活動の減速は、貿易の鈍化や住宅規制の影響などの一時的な変動要因によって予想されていた。この減速によって、今後3年の経済成長は潜在成長を僅かに上回ることが見込まれる。結果として、実質GDP成長率は、2018年と2019年に2%程度になる予想となり、2020年には潜在成長率の1.8%に鈍化する見込みとなる。2018年1月の見通しからは、2018年は若干の下方修正となり、2019年にはより大きな上方修正が反映されている。
予測期間を通じて、成長を構成する項目はシフトすることが見込まれ、家計消費の貢献が減少する一方で投資と輸出からの貢献が増加することが見込まれている。金利が上昇することがこれらのシフトを促進する。金融・財政政策は、予測期間において経済活動をサポートすることが見込まれ、貿易政策の不透明感による投資と輸出の抑制を緩和することが見込まれる。
インフレ率は目標の伸びに近い。最近のCPI(消費者物価指数)の総合指数とカナダ中銀が参照するコアインフレ率は、2%程度上昇している。ガソリン価格と最低賃金の上昇による一時的な要因が物価上昇圧力となっていて、電気、食品によるインフレ圧力の低下要因を上回っている。インフレの低下要因より上昇要因が長く続くことによる影響から、2018年のインフレ率は1月時点の予想より若干高くなることが見込まれるが、引き続きターゲットの2%程度に戻ることを想定している。
経済成長は鈍い第1四半期の伸びから回復する見込み
2018年の前半は、平均で2%程度の成長が見込まれる。減速は主に輸出、住宅、投資の分野に見られる。これらの結果、経済活動は第1四半期は1.3%(四半期ベースの年率換算値)の拡大となる一方、第2四半期には2.5%(同)の反発となる見込み。資源の出荷が阻害された問題を反映して、輸出は第1四半期に減速した。これは一時的な要因と見込まれ、輸出の伸びは生産拡大が続く原油輸出の大幅な増加によって第2四半期に反発することが見込まれる。材木や農産物などの非エネルギー商品の輸出は、悪天候と鉄道輸送の制限による停滞から回復することが想定される。
住宅部門の活動は、住宅規制の実施によって第1四半期に急速に調整したことが見込まれる。この調整は2017年第4四半期の駆け込み需要によって増幅された。2018年第2四半期には、販売の回復によって反発することが見込まれる。
2017年後半にいくつかの主要なエネルギープロジェクトが完了したことによって、2018年第1四半期の投資の伸びは停滞したようだ。エネルギー部門の投資の調整は、その他の部門の投資の伸びを相殺する見込み。堅調な投資の成長は、第2四半期に表れてくると見込まれる。最近の輸入のデータからは、機械・設備の投資の成長が見られる。1月の見通しに比べて、主に機械・設備の輸入が予想よりも強かったことによって、経済成長は2017年第4四半期に弱い結果となった。実質GDPが潜在成長に近い成長をするなか、国内需要の貢献が強かった。数四半期にわたる経済活動の変化の影響を反映して、2018年第1四半期の推計も下方修正された。
潜在成長率は上方修正
潜在成長率は、2017年4月時点の推計から上昇したと見込まれる(2018-2020年は1.8%、2021年は1.9%)。投資の拡大によって、労働生産性の成長が改善したと見込まれる。移民の拡大によって一部相殺されるものの、人口の高齢化によって労働投入の伸びは減速を続ける。
経済は潜在成長力に近い活動を続ける
潜在成長率の上方修正と予想を下回るGDPの結果を受けて、カナダ中銀は2018年第1四半期のアウトプットギャップは-0.75%~+0.25%の間であると推計している。このレンジは1月時点の推計を若干下回るが、引き続きカナダ経済が潜在成長力に近い活動を3四半期連続で続けていることを示している。企業は最近の投資、雇用の拡大を通じて潜在成長率を向上させているが、いくつかの企業では引き続き明確な生産の制限に直面している。全体として、稼働率は過去のピークに近い。2018年4月のBusiness Outlook Survey(BOS)では幾分緩和したことが示唆されているが、依然として直近の高水準に近い。
雇用の伸びと労働時間の拡大が2018年の初めから鈍化したが、労働市場は、セクター、地域を超えて改善を続けている。失業率は、過去40年で最低の水準にとどまっている。求人数は前年から25%程度上昇し、2017年第4四半期には年間の雇用者増加数より多い470,000人となった。最新のBOSによると、求人の強さと採用の困難さが増している状況は、雇用市場の引き締まりと余地の縮小を示している。しかし、長期失業率は依然として比較的高い水準にあり、若者の参加率は増加の余地がある。また、BOSではエネルギーセクターの企業は労働市場に緩みがあることが示されている。
労働市場の全体的な改善は賃金の上昇につながっている。賃金の伸びは雇用の余剰がない場合に想定される状況よりは幾分下回っている。
インフレ率は2%に近い伸び
経済が潜在成長率に近い水準の活動となるなかでCPIは全体とコアが2%程度の伸び率となっている。2017年半ばのボトムからは、想定通り余剰生産力の吸収と一時的な要因の減退によってインフレ率は堅調に推移している。2018年第1四半期のCPIの伸びは1月時点に予想していたよりも高かった。予想を上回ったのは、航空輸送や耐久財、そして最低賃金の上昇に影響されたサービスセクターによるもの。これらの物価圧力への影響は一時的なものと想定される。一方で、最近のインフレ率の月次の振れは、ガソリン価格の一時的な変化を反映している。
カナダ中銀が参照している3つのコアインフレ指数は、余剰生産力からの低下圧力が減少したことを反映して、予想通り上昇した。2018年初からのCPI-commonの上昇は、最近の最低賃金の上昇を反映している。
インフレ予想のリスク要因
⑴カナダの投資・輸出の減速
⑵世界の金融環境の急激な引き締まり
⑶米国経済の予想を上回る成長
⑷消費の伸びと家計債務の伸びによる脆弱性の拡大
⑸高騰する住宅価格の顕著な下落