カナダ中銀の利上げ発表とNAFTA離脱交渉のまとめ
カナダ中銀は1月の会合で0.25%の利上げを発表
本日、カナダ中央銀行(BoC)は3会合ぶりに0.25%の政策金利の引き上げ(1.00%→1.25%)を発表しました。
今回の利上げは前日時点で80%程度市場に織り込まれており、概ね市場予想通りといえます(先週時点で利上げはコンセンサスでした)。CPI(消費者物価指数)や雇用統計といった経済指標からは同国経済の好調さとともにコアCPIの上昇が確認されており、これらを受けて、先月12月の声明文では利上げの可能性を示唆しつつも慎重な姿勢を維持すると表明していたBoCも利上げに踏み切りました。
今月の利上げは概ね市場予想通りであったものの、先週来米国のNAFTA(北米自由貿易協定)離脱の可能性に焦点があたり、それが利上げ予想の織り込みを妨げる要因となっていました。米国のNAFTA離脱の可能性は、当局者の発言で評価が振れており、協議のプロセスを逐次評価していくしかなさそうです。
利上げを受けた市場の反応
利上げ発表直前のUSD/CADは1.2415付近、CAD/JPYは89.15付近でしたが、NAFTAを巡る懸念が示されていたことや金融緩和の継続の必要性が追加されていたことなどから早期の追加利上げ観測とはならず、初期の反応はCAD安となりました(USD/CADは荒い動きで1.25台まで下落した後、1.24台後半での推移となりました)。
BoCの声明文概要
①NAFTAを巡る不確実性が経済見通しを不透明にしていることを指摘し、否定的な判断を見通しに追加
However, uncertainty surrounding the future of the North American Free Trade Agreement (NAFTA) is clouding the economic outlook.
However, as uncertainty about the future of NAFTA is weighing increasingly on the outlook, the Bank has incorporated into its projection additional negative judgement on business investment and trade.
②先進国の経済成長は10月時点のBoCの見通しよりも強くなることが見込まれる(特に米国経済は、税制改革によってさらに勢いを増す兆しがある)
Growth in advanced economies is projected to be stronger than in the Bank’s October Monetary Policy Report (MPR).
③実質GDP成長率見通し(下表)は、2017年は僅かに下方修正、2018年と2019年は僅かに上方修正
今回(1月) | 前回(10月) | |
2017年 | 3.0% | 3.1% |
2018年 | 2.2% | 2.1% |
2019年 | 1.6% | 1.5% |
④2018年の第1四半期は潜在成長率を上回る成長を予想しているものの、それ以降は潜在成長並みの成長まで鈍化することを予想
Growth is expected to remain above potential through the first quarter of 2018 and then slow to a rate close to potential for the rest of the projection horizon.
⑤最近のデータは労働市場の緩みが想定以上に早く吸収されていることが示されている
Recent data show that labour market slack is being absorbed more quickly than anticipated.
⑥賃金は伸びているが、労働市場の緩みがない場合よりも下回る上昇となっている
Wages have picked up but are rising by less than would be typical in the absence of labour market slack.
⑦インフレ率は2%に近く、コアインフレは経済の緩みの減少に伴って上昇してきた
inflation is close to 2 per cent and core measures of inflation have edged up, consistent with diminishing slack in the economy.
今後の追加利上げの可能性について
今後の利上げについては、先月の声明文同様に将来の政策変更を慎重に検討するという表現が残っている上に今後も利上げの余地を残しているものの、”some continued monetary policy accommodation will likely be needed to keep the economy operating close to potential and inflation on target. (金融緩和の継続が経済運営とインフレ目標の達成に必要となるだろう)”の部分が追加されていて、NAFTAの影響なのか、追加利上げが近いとは言えない状況ではないかと思います。
While the economic outlook is expected to warrant higher interest rates over time, some continued monetary policy accommodation will likely be needed to keep the economy operating close to potential and inflation on target. Governing Council will remain cautious in considering future policy adjustments, guided by incoming data in assessing the economy’s sensitivity to interest rates, the evolution of economic capacity, and the dynamics of both wage growth and inflation.
NAFTA離脱を巡る当局者発言等まとめ
米国のNAFTA離脱の可能性が急速に警戒され始めたのは、このニュース(ロイター:カナダ、トランプ氏がまもなくNAFTA離脱表明と確信=当局者)がきっかけでした。
カナダ政府筋の1人は「政府は確信を強めている。トランプ氏が離脱を表明するのに備えている」と述べた。
カナダ当局者の発言が伝わった後、メキシコの当局者も米国のNAFTA離脱に対する厳しい姿勢を表明(ロイター:メキシコ、米国がNAFTA離脱通知なら交渉から退く方針=関係筋)しました。トランプ大統領がNAFTA離脱を表明するのは交渉術の一つ(ロイター:トランプ米大統領、NAFTA離脱通知を交渉戦術に用いる可能性)としてありうる(もしくは離脱の可能性が高いと思わせることで表明することなく交渉を有利にしたいと考える)と思いましたが、カナダ、メキシコが緊張感を高めるとともに米国内からの反発も強く、そんな手が通じるとは思えません。翌日には、トランプ大統領の柔軟姿勢を伝える報道が早速出てきて(ロイター:米、NAFTA再交渉で柔軟姿勢 メキシコ大統領選踏まえ=WSJ)、あっというまに緊迫感が緩和しました(当初の報道時には、今月中にも離脱表明の可能性との見方もありました)。
米国とカナダ、メキシコの3か国は今月23日から再交渉の第6回協議を行う予定ですので、まずはそこでどのような案が示されるのか(ロイター:米NAFTA離脱の可能性、深刻に受け止める=カナダ外相)、注目したいと思います。
米国はNAFTA再交渉で、自動車の部材に関する原産地規則の厳格化や5年ごとに更新されなければ協定が自動的に廃止になるとの「サンセット条項」の導入、参加国間の紛争解決メカニズムを定めた19条の廃止を提案している。一方、カナダとメキシコはこの提案に強く反発している。フリーランド外相は、モントリオールでの会合で3カ国が強い取り組み姿勢を示せば良い結果を出すことは可能だと説明した上で、米国側の異例の提案について「新たな案がある」と語った。ただ、詳細には言及しなかった。政府筋が明らかにしたところによると、カナダは自動車の部材について何らかの提案をする可能性がある。
それにしても、これだけ自国含む様々な団体(自身の支持母体と思われる)から反対の姿勢を示されているにも関わらず、トランプ大統領は離脱を断行するのでしょうか。
alic(農畜産業振興機構):NAFTAからの離脱による農業への影響と農業団体の動き(米国)
米国の自動車製造関連団体などは、総じて離脱に反対の意向を示しており、また、農業関連団体も、総じて離脱には反対の意向を表明し、NAFTAの重要性を政府に訴えかけている。2017年10月には、90もの主要農業関連団体が名を連ねたウィルバー・ロス商務長官宛ての書簡の中で、「NAFTAからの離脱は、米国の農業・食品産業だけでなく、米国経済全体に迅速かつ相当な損害をもたらすことになるだろう。」と警告している。
ロイター:NAFTA再交渉、3カ国の自動車団体は原産地規則変更に反対
NAFTA離脱の場合には30万人の雇用が失われるという分析もあるようで(CNN:米のNAFTA離脱、30万の雇用減や景気減速も)、とてもじゃないけどやれないでしょ、と思ってしまいますが、トランプ大統領ならわかりませんね。
4件のフィードバック
[…] これまでのところ、2018年1月のBoCの利上げや、2018年1月に変更になった住宅ローン審査の厳格化の影響は特に感じられません。 […]
[…] 前回2018年1月のBoCの利上げ時には、NAFTA再交渉の影響もあってやや慎重な姿勢も見せていたBoCですので、今回の指標でやや追加利上げの期待が高まりにくくなりました。また、最近の株式市場の混乱や供給増を懸念して原油も下げていますので、そのあたりからも追加利上げの期待が高まりにくいと考えておいた方がいいかもしれません。 […]
[…] 前回2018年1月の利上げ時点のカナダドルが1.24台、89円台だったことを考えると、いまの1.29台、82円までよく変化してきましたね。NAFTAの不透明とVIXショックでの株安、米国の関税導入表明など、カナダドルにはネガティブな材料が続きました。今後はどうなるでしょうか。NAFTAの行方に加えて米国の関税によってますます不透明感が強まってしまいましたので、BoCは動きづらいですね。CPIの伸びが高まるか、労働市場が極端に引き締まって賃金の伸びが加速してくることでもなければ、米国の政策動向を見ながら緩やかな金融政策の調整を慎重に慎重に進めていくしかないのではないかと思います。 […]
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