カナダ雇用統計(8月)は弱く、利上げの緊急性低下
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カナダの8月の雇用統計は弱い結果
9月7日に発表されたカナダの雇用統計は、雇用者数が前月から5.16万人減少となり、5.41万人増加した先月の分を打ち消してしまいました。
フルタイム雇用者が4.04万人の増加となる一方で、パートタイム雇用者は9.20万人の減少となっていて、ちょうど7月と反対に、全体の数値は弱いが、内訳はそう悪くない、という結果になっています(7月はフルタイム雇用者が2.8万人減となる一方で、パートタイムの雇用者が8.2万人増)。
失業率は前月の5.8%から6.0%に上昇し、市場予想の5.9%を上回る悪化となっています。
州別には、オンタリオ州の減少が著しく、8月は8.01万人の減少となりました。
オンタリオ州のフルタイム雇用者はほぼ横ばいでしたので、今回のオンタリオ州の減少はすべてパートタイム雇用者によるものでした。
オンタリオ州の減少幅は、2009年以降で最大のものとなっています。
労働参加率は65.4%から65.3%へ低下、予想が65.5%でしたので、こちらも弱い数値ですが、55歳以上の労働者の参加率0.4%減の影響が大きく(25-54歳の労働参加率は0.1%上昇)、何とも言えない数値です。
全体として、振れの激しい指標ですので、単月では何とも言えませんが、やや弱い結果であることは間違いないでしょう。
雇用の改善ペースは明らかに鈍化
失業率の水準自体は、過去40年で最低水準にあり、BoCの言うとおり、経済はCapacityに近い状態での活動を維持しています。
しかし、失業率は2017年12月に5.8%を付けた後、2018年に入ってからは低下することなく、8月に6.0%に上昇しています。
2016年12月から6.9%から、2017年12月までに1.1%低下したことを考えると、2018年に入って以降、雇用の逼迫度合が高まっているという状況ではないものと思われます。
ただ、BOSで指摘されているとおり、熟練したスキルをもった労働者を確保するのが難しいといった局地的な問題はあるようですが、全体として雇用市場の圧力が強まっているということはなさそうです。
賃金上昇率の鈍化はBoCの判断に影響する
雇用の増加が鈍いこと自体は、Capacityに近い水準での活動を続けていると考えているBoCの判断に大きな影響はないでしょうが、賃金の上昇率も鈍化したことは、利上げを急ぐ必要性が大きく低下したと判断され得るものだと思います。
8月の賃金上昇率は、前年比2.6%、7月の3.0%から鈍化しました。予想は3.0%でしたので、かなりの鈍化と言えます。
10月のBoCでは、経済見通しとインフレ見通しが再評価されますが、それまでにもう一度雇用統計が出ますので、賃金の伸び率は非常に重要になってくるでしょう。
カナダドルは下落
弱い雇用統計を受けて、カナダドルは1.3110-20から1.3170-80へ下落しました。
同時に発表された米国の雇用統計が強かったこともあり、米ドルが強くなりました。
米国の8月の雇用統計は、雇用者数20.1万人増(予想19万)、賃金上昇率が2.9%と前月の2.7%から加速という、カナダとは対称的な強さを示すものでした。
特に賃金の伸び率は、2009年以降の今次景気サイクルで最も高い伸びとなり、9月のFOMCの利上げはもちろん、12月の利上げも期待させるものでした。
それでもBoCの10月利上げは揺らがず
FOMCの9月利上げが確実視されるなか、今回のカナダの雇用統計を受けても、市場のBoCの10月利上げ予想は変わっていない模様です。
単月のデータでは判断するには難しいというのもありますが、前日のBoC副総裁の発言が大きく影響していると思われます。
前日の副総裁の発言で、これまでの段階的な利上げのアプローチを見直すべきか議論したという発言(結局、現在のペースが適切と判断)があり、利上げペース加速か?という懸念が高まりました。
また、関税の不透明感については、NAFTAの再交渉が決裂した場合、経済、賃金へ悪影響が及び、保護主義的な動きのなかで経済がCapacityに近い水準での活動を続けるとインフレが上昇するとの懸念を示しました。
その場合、利上げが必要になるという結論ですが、この考え方はこれまでのNAFTA再交渉決裂=カナダドル安というロジックを中和するもので、NAFTA再交渉の結果による影響がますます不透明になってしまいました。
副総裁の利上げに対する確固たる姿勢をもあり、今回の雇用統計では10月の利上げ予想は変わっていません。
利上げはいずれ終わる
まだまだ段階的な利上げ方針を維持しているBoCですが、米国同様、来年にかけて利上げペースの終着点が見えてくるものと考えています。
カナダ雇用市場の鈍化、鈍い賃金上昇率、関税によるグローバル経済への悪影響、新興国経済の痛みとして表れ始めた米国の量的緩和の縮小の悪影響を踏まえると、徐々に米国・カナダの利上げが難しくなっていくことが想定されます。