エスカレートする米中貿易摩擦の為替への影響は
米中貿易摩擦はエスカレート
米国の鉄鋼・アルミニウムへの関税賦課をきっかけに貿易摩擦への懸念が高まっていましたが、対象から除外される国が徐々に増えていったことや手続きに時間がかかるといった思惑から、「米国の交渉術によるもの」と捉えられて懸念が緩和していました。
しかし、先週後半に米国が「中国からの輸入品に追加関税1000億ドル検討」と伝わると、中国が即座に反撃を示唆するなど、事態が再度悪化しました。
緊張はここにきてエスカレートの一途で、トランプ大統領が貿易問題について楽観的なツイートをしているところに、本日「人民元の切り下げを検討」と伝えられました。
ブルームバーグ:トランプ大統領:中国が先に屈服するだろう、米中貿易問題
ロイター:中国、人民元切り下げを検討 対米貿易摩擦への対応で
この緊張の高まりは非常に憂慮すべき事態です。これより強い報復措置は、中国が保有する米国債の売却ぐらいでしょうか。
この問題がどのように帰結するのか、全くわからなくなってきました。
通貨切り下げと国債の売却、どちらかが対策として取られると非常に深刻です。
トランプ大統領はいったい何をもってこの問題に「勝つ」と定義しているのでしょう。中国が貿易障壁を緩和してくることを望んでいるのでしょうが、中国はカナダやメキシコ、日本といった米国との貿易に強く依存している立場の弱い国々とは異なります。要求を飲ませるのはそう簡単ではなく、「“China will take down its Trade Barriers because it is the right thing to do”」なんてお気楽なことを言っている場合ではないです。
為替市場への影響は利上げ観測の後退
貿易戦争への懸念は株安に直結していて、先週金曜日もダウが572ドル下げています。
月曜の日本と欧州の株式市場は反発しているようですが、事態は予断を許さない厳しい状況です。
ところで、2-4月の株式市場の調整、現在の貿易摩擦への懸念の高まりは為替市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
現在のEUR/USDは1.23付近です。
2018年初のドル安(なぜこれほど強烈にドル安なのか)に注目していたときは1.21台後半あたりでしたので、ほとんど水準は変わっていません。ドル円は110円台から106-7円台に下落していて、日銀の追加金融緩和が望めないなかで株安の圧力を受けて円高になっています。それでも、依然として107円付近にいるのは、よく持ちこたえているという感じです。
通常、これほどの円高局面では米ドル高方向で推移するケースが多いですが、今回はほとんど動いていません。
1月に1.22を超えてからはずっと1.22-1.25台を中心としたレンジでの推移となっていました。
この間のEURのIMMのポジションもほとんど変化がありません。
2018/1/9 144,691枚のネット買い越し(EURロング) 買い:242,053枚 売り:97,362枚
2018/4/3 134,381枚のネット買い越し(EURロング) 買い:221,327枚 売り: 86,946枚
この間の市場の焦点は、米国の利上げペースが加速するかどうかにありました。
同時に、欧州でも金融緩和からの解除がいつになるのか、という点に注目が集まっており、米国に追随して金融の正常化が進められると目されていました。
それが、今回の貿易戦争による懸念の高まりによってどちらも期待が後退しています。
今回の貿易交渉がどのような帰結を迎えるのかわかりませんが、長引けば長引くほど、不透明感が強い状況が続くことで企業マインドに悪影響となり、投資活動への影響が出てくるでしょう。
そうなると経済への悪影響は避けられず、利上げペースは米欧をはじめとした世界中で鈍化せざるを得ません。
EUR/USDのポジションは、米国の利上げ期待の剥落を織り込んだものになっているのかもしれません。
ただ、米国の利上げ期待の鈍化が欧州にも波及することで欧州の金融引き締めも遅れることが想定されますので、結果としてEUR/USDは水準を変えることなく、現状維持となっているのではないでしょうか。
EUR/USDは、欧州の金融引き締めを織り込む以外にこれ以上上昇するのは難しいと思いますので、ロングポジションの重さからよくて横ばいでしょう(米国の利上げ観測が縮小するならば、欧州やその他の国の利上げ期待も軒並み鈍化するでしょう)。
市場では既に、USDの将来のOISに鈍化の兆しが見られており、利上げ期待が剥落しつつあります。
ブルームバーグ:米市場に悪い予兆か、1カ月物OISに逆曲線化出現-JPモルガン
円ポジションに異変
EURのポジションには大きな変化は見られていませんが、JPYのIMMポジションにはかなりの変化が見られます。
以下のとおり、これまでの円ショートの大きなポジションが大幅に縮小し、ネットでJPYの買い越しにまでなっています。トランプ大統領の当選以降拡大していたJPYショートのポジションがほぼクローズされた形です。
2018/1/9 125,536枚のネット売り越し(JPYショート) 買い:37,376枚 売り:162,912枚
2018/4/3 3,572枚のネット買い越し(JPYロング) 買い:48,053枚 売り: 44,481枚
USD/JPYについては、2017年は109-114の狭いレンジで推移を繰り返し、「米国の利上げで円安」というロジックも強いものでした。
足元で、貿易摩擦への懸念で円安期待が一気に剥落しています。一方で、JPYのロングが増えている訳ではないことが、円高が極端に加速していない一因なのでしょう。株安のなかでリスクを積極的に取りづらいのかもしれません。
黒田日銀総裁が再任されますが、追加金融緩和をする余力はないはずですので、米中貿易摩擦のさなかに円安が進むと考えるのは無理がありますね。