カナダ中銀(BoC) MPR(2018年7月) 関税によりカナダの輸出と輸入はそれぞれ0.6%減少
<概要>
・予測期間において、潜在成長率を上回る堅調な経済成長を想定
・米国とカナダの関税の応酬は、カナダの輸出・輸入をそれぞれ0.6%ずつ押し下げると試算
・カナダが米国製品に課す関税の影響によって、インフレを0.1%押し上げると試算
・2017年までのGDP成長率の主役だった個人消費が鈍化する代わりに、輸出と投資が補う
・インフレは2018年第3・4四半期に2.5%まで上昇することを想定するが、その後2%程度まで戻る見込み(ガソリン価格の上昇や最低賃金の上昇など一時的な要因による)
・住宅市場は規制強化を受けて調整してきたが、回復を想定
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カナダ経済は引き続き堅調な推移を想定
カナダ経済はキャパシティの上限に近い活動を続けていて、GDPは潜在成長率を若干上回る拡大が見込まれる。成長の要因は変化していて、輸出や企業投資が拡大する一方で、家計消費の貢献は2017年よりも小さくなることが見込まれる。
中銀の見通しでは、経済活動は堅調な海外の需要や緩和的な金融環境によって支えられる。投資と輸出入は拡大が見込まれるものの、最近カナダの鉄鋼・アルミに課されている米国の関税と交易政策の不透明感によって抑制されている。4月以降、NAFTA再交渉の遅れを反映して不透明感は増加している。
実質GDP成長率は、4月時点の見通しと大きく変わらず2018年から2020年は平均して2.0%となる見込み。2018年の第1四半期は、企業投資と輸出が予想よりも好調だった。力予測される期間において、関税と貿易政策の不透明感がありつつも、高い原油価格などを反映して力強い水準の消費が続くことが見込まれる。
CPIは、最近の数値では2.2%程度で推移している。CPIは、2019年後半に一時的な影響が剥落して2%付近に戻る前に、2018年第3、第4四半期に、2.5%に上昇することが見込まれる。コアインフレは2%付近で推移していて、経済活動がキャパシティに近い水準で推移していることと一致している。
GDP成長要素の変化
カナダ経済は、当面は潜在成長率を幾分上回って成長することが見込まれる。予想通り、第1四半期の成長率は1.3%と緩やかにとどまっていて、第2、第3四半期は平均で2%程度の成長が見込まれる。成長の要因は家計消費から企業投資、輸出へと変化を始めている。この変化は、家計がより高い金利とタイトな住宅ローン基準に適応することによって起こっている。
家計債務の成長は減速を続けていて、現時点では家計所得の伸び率を下回っている。結果として、家計債務の可処分所得に対する比率は低下し始めている。消費の伸び率は2017年の半ばから金利感応度の高い分野を中心に減速を続けている。住宅ローン基準の厳格化は新規住宅ローンのクレジットクオリティを改善させているものの、住宅ローン基準の厳格化のアナウンスが2017年第4四半期の駆け込み需要につながり、2018年の最初の数か月は顕著な落ち込みとなった。結果として、2018年前半の住宅投資は減速したようだ。第3四半期には住宅販売の反発が期待される。
一方で、企業は堅調な需要を受けてキャパシティを拡大している。カナダ中銀は企業投資と輸出が2018年前半に4月時点の見通しよりも力強いものになったと予想している。IT投資と研究開発は特に好調だった。2018年前半の輸出の力強い伸びは、主に2017年末の一時的なパイプラインの閉鎖からのオイル輸出の想定外に早いリバウンドを反映したものであることから、第3四半期の輸出の伸びは減速することが見込まれる。
カナダ経済は潜在成長率に近い活動を続け、インフレは2%に近い水準となる
カナダ中銀は、2018年のGDPギャップが-0.5%から+0.5%にあると判定している。カナダ中銀は、4月時点から、2018年第1四半期の高水準の投資を受けて予測期間におけるGDPギャップの推計を僅かに上方修正した。
労働環境は健全な状態を維持しているが、雇用と平均労働時間の伸びは昨年の力強いペースから減速した。同様に、2017年の顕著な減速の後、2018年の足元までの失業率は、直近40年の最低水準で比較的安定的に推移している。企業は今夏のBOS(Business Outlook Survey)において労働力の不足が増大していることを報告している。それにもかかわらず、労働力のたるみが残るエリアが特にエネルギー生産関連の地域にある。最近の労働参加率の上昇は、追加的な人々が働きたいと考え始めている可能性を示している。同様に、長期失業率は依然として高水準にあり、若年層の労働参加率は抑制されたままとなっている。この背景などから、基調的な賃金成長率は2.3%にとどまっていて、たるみのない労働市場において期待される賃金上昇圧力よりも低くなっている。
経済が潜在成長率に近い水準で活動していることと同様に、コアインフレについては2%に近い水準にとどまっている。CPIについては、ガソリン価格と最近の最低賃金上昇を反映したサービス価格の上昇による一時的な上方圧力によって、わずかに2%を上回っている。
GDP成長率は平均で2%になると想定するが、見通しは貿易問題によって不透明になっている
カナダ中銀は、予測期間においてGDPが潜在成長率を若干上回って推移すると想定している。消費は堅調な所得の伸びにサポートされることになる。輸出と投資の成長への寄与は、関税を巡る問題がありつつも近年の数値よりも改善していく。政府支出の伸びは、2016年の刺激策の影響が剥落することで、直近2年の数値に比べて2019年と2020年は減速する見通し。
カナダ中銀の最近の研究では、米国との関税問題による影響は、2020年末のGDPの水準を2/3 %減少させると試算している。この影響は4月時点よりも大きいものの、GDP見通しにおいて原油価格の上昇によるポジティブな影響と大まかに相殺している。
家計消費は緩やかな拡大を想定
家計消費は、2017年よりもGDP成長率への寄与が低下する。住宅投資の寄与は2018年に縮小する見通しで、先行きも減少していく。住宅投資の減少は、タイトになった住宅ローン規制と、金利上昇による。消費と住宅の金利への感応度は、家計債務の可処分所得に対する比率が上昇していることから、過去のサイクルよりも大きくなっていると推計される。金利上昇の影響は、高債務の家計が最も影響を受けるように、借り手のカテゴリーによって異なる。
家計消費は、賃金の上昇と原油価格の上昇による交易条件の改善によって支えられると予想する。しかし、家計消費の成長は総労働時間の伸びの鈍化と住宅ローン規制の改訂によって影響を受ける。改訂された規制によって家計に貯蓄が促がされ、彼らはタイトな住宅ローンのストレステストにパスできるかもしれない。
住宅投資は金利上昇と住宅ローン規制強化の影響を反映して減速している。住宅販売は、規制が発行すると調整したが、今後数四半期で改善することが見込まれる。住宅販売と住宅着工のデータは住宅市場が安定化し始めていることを示している。建設支出の伸びは、予測期間において低調なことが想定される。住宅ローン規制は、一般的な住宅の買い手がどの程度借り入れられるのかについての制約が強まっていることから、家計がより安価な受託を購入することにつながる可能性がある。
貿易問題の不透明感が強まっているものの、堅調な需要によって投資が支えられる見込み
企業投資は2017年初から見られている力強い成長に続いて、緩やかな成長が見込まれている。全地域の企業でキャパシティによる制約が強まることを想定している。しかし、輸出関連企業は貿易問題の不透明感が拡大していることから投資を延期・縮小すると見込まれる。多くのセクターで、企業の想定する堅調な内外の需要の拡大とキャパシティの制約を背景とした資本支出によって緩やかな投資の伸びが見込まれる。鉱業、オイル、ガスセクターでは、価格上昇が投資増加の誘因となる。企業センチメントは原油価格上昇とパイプライン容量の不足が改善に向かっていることによって改善している。しかし、原油輸送の制約がカナダ西部で残存していて、短期的に生産拡大が制約される見通し。
輸出の成長は、主に堅調な海外の需要の伸びと原油価格の上昇に支えられて、予測期間において増加すると想定。最近課された関税と貿易摩擦の不透明感の増大がなければ見通しはさらに強いものになっていた。成長の状況はセクターによって異なっている。米国当局により課されたカナダからの鉄鋼とアルミニウムの輸入に対する関税は、カナダからの輸出を0.6%減少させると見込まれる。同様に、カナダが課す米国からの輸入に対する関税によって、カナダの輸入が0.6%減少する見込み。海外の力強い需要に支えられて、機械製造やサービスといった資本投資によってキャパシティの拡大や研究開発を計画しているセクターでは、輸出が拡大することが見込まれる。一方で、セクターによってはキャパシティによる制約に影響を受け続ける。例として、多くの商品の輸出では、現在列車の不足による輸送能力がボトルネックとなり、制約を受けている。これらの不足は、来年に渡って続く見込み。食品製造のセクターでも、物理的なキャパシティが課題になっているほか、様々なセクターで高スキルの労働者を獲得することの難しさが報告されている。
カナダ中銀は、競争力の問題が予測期間に渡って輸出の成長を抑制する影響を調べている。これは近年非エネルギー分野の輸出に見られた競争力の喪失を調べるものです。輸入の成長は、最終需要の伸び率が鈍化することと、米国製品に関税を課すことによって、予測期間に渡って減速する見込み。
インフレは一時的に2%を上回る見込み
CPIは、2018年の第3・4四半期に2.5%に一時的に上昇した後、2%に戻ることが予測される。インフレは、最近のガソリン価格の上昇、最低賃金の上昇の影響、関税と為替レートの推移によって2%を上回ることが見込まれる。中銀はカナダが米国製品に対して課す関税が一時的にインフレを0.1%程度上昇させると推計している。これらの要因を十分に織り込んだ後は、インフレに対する上方圧力は減退すると見込まれる。食品価格の低インフレは、2019年前半までCPIに対するネガティブな影響を与える。CPIは、2019年半ば以降の予測期間において2%に近い水準を想定している。
この予測は、中長期のインフレ期待が抑制されていることと一致している。今夏のBOSでは、多くの回答者がインフレが今後2年間で中銀の目標レンジである1−3%に留まっていると予測している。BOSの予測の中心は、中銀の予測と同様に、インフレが目標レンジの上半分にいるというもの。2018年6月のCPI見通しのコンセンサスは、2018年に2.3%、2019年に2.0%、2028年までの長期のインフレ期待が平均2.0%となっている。
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[…] 今回の指標のポイントは、BoCの利上げに対してどう影響するか、という点です。BoCの7月時点の予想(MPR)では、3Q(7-9月)のCPIは2.5%に「一時的に上振れる」と想定されていました。 […]