なぜこれほど強烈にドル安なのか
強烈なドル安
ドルの下落が止まりません。
ドル円の110円台は目新しさという意味ではそれほどインパクトはないですが、対ドルのユーロ1.22台、ポンド1.37台は驚きますね。
ドルは上記の通貨以外の先進国通貨、新興国通貨に対しても下落していて、ドル全体の動きを示すドル・インデックス(DXY)は3年ぶりの水準まで下落しています。
この背景はなんでしょうか。米国ではFOMC(米連邦公開市場委員会)が12月に利上げを決定したばかりですし、以下のとおり2018年も2019年も利上げを続ける見通しを示しています。
米国税制改革法案は昨年末成立し、米国の株式市場は年初から主要指数で最高値を更新して絶好調です。
米国の12月の利上げ時のニュース(ロイター:米FRBは利上げ決定、来年3回の利上げ見込む)
FRBは声明で「労働市場が引き締まり続け、経済活動が堅調な速度で拡大していることを示している」と利上げの理由を説明した。
利上げは今年に入って3回目。2018年と2019年はそれぞれ3回ずつ利上げが実施されるとの見通しを示した。金利は長期水準の2.8%に達する見込み。FRBは9月にも同様の見通しを示している。
何が変わったのか
米国の景気が好調さがFRBの利上げにつながることで米ドルが上昇する、というのが2017年初までの重要な為替市場のテーマでした。この環境が変わったかというと、全く変わっていません。FRBは2017年初に概ね想定されていたとおりのペースで利上げを実行し、依然として利上げスタンスを維持しています。
2017年初を振り返ると、いまとなっては信じられませんが、ユーロの対ドルレートが1:1になるパリティ(等価)に向かうと誰もが信じていたように思います(WSJ:ユーロ、ドルに対しパリティつけるか)。これは、当時の極端な見方ではなく、至って普通の見通しであったと思います。
米大統領選以降、米国の金利・経済成長見通しが一変したため、再びユーロ安・ドル高が進んでいる。米連邦準備制度理事会が利上げすれば、より高い利回りを求めて資金がドルに流れ込み、一段とドル高が進むだろう。
ドル高を支える材料は変わっておらず、寧ろポジティブな材料も増えているにもかかわらず、蓋を開けてみるとユーロドルはパリティをつけることなく反発して、いまや1.22台です。この変化の一番の理由は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策の変化の兆しにあります。
ドル安の一番の理由はECBの変化
欧州でも堅調な経済成長が続く中、これまでの緩和的な金融政策が見直される可能性が高まっていて、先週1月11日にはECBの12月会合の議事要旨が公表されたことをきっかけにユーロドルが騰勢を強めました(Bloomberg:【NY外為】ドル3カ月ぶり安値-ECB議事要旨でユーロは上昇)。
昨年12月13、14両日のECB政策会合の議事要旨では、ECBの将来の行動に関するガイダンスは景気が改善する中で徐々に変化していく見通しで、今年の早い時期に見直される可能性があることが示された。
この議事要旨を受けて、ドイツ国債の利回りは上昇し、ユーロドルはユーロ高・ドル安で推移する結果となりました。
日経:ECB、先行き方針の変更示唆 12月会合議事録で 「18年の早い時期に」
欧州中央銀行(ECB)は11日公表した2017年12月の理事会の議事録で、金融政策の先行き方針(フォワード・ガイダンス)の見直しが議論になったことを明らかにした。景気と物価が順調に回復を続ければ「18年の早い時期」に修正する可能性があるという。
今月の日銀の国債買い入れオペ減額(Bloomberg:円が全面高、日銀オペ減額余波で-対ドルで1週間ぶり高値)がドル安圧力を強めた可能性があることや、中国が米国債購入に対して消極的、といった情報(Bloomberg:米国債投資に中国当局者が消極姿勢、買い削減や停止を勧告-関係者)が伝えられた(のちに中国当局が否定)ことがドル安の材料となったものの、一番のドル安の理由はECBの金融政策の方向転換の可能性に焦点があたっていることです。
米国経済が依然として好調でも、これまで緩和を続けていた欧州が引き締め方向への変化の兆しを見せたことでこれまでの動きが逆転してしまいました。為替は難しいですね。
ユーロのポジションとユーロドルの推移
最後に、CFTC(全米先物取引委員会)のIMMポジション(リンク先は外為どっとコムのページ)を確認しておきたいと思います。このデータは、通貨先物の建玉データがCFTCから週次で発表されたものです。
火曜のデータが金曜に発表されるというラグのせいなのか、あまり投資に直接役に立つ印象はありません。あくまでも現状を把握するという意味で定期的に確認しますが、為替はポジション等の状況を確認するデータが少ないので助かります。IMMポジションでは、投機的な取引を示していると言われるnon-commercialのデータを確認します。ロング、ショートとあり、単位は枚数、ロングからショートをマイナスすることでネットの枚数を求め、その方向性、ネットポジション(枚数)の水準などから現状を推し量ります。1枚あたりの取引額はEUR 125,000となっています。
ロングとショートの枚数の推移を見ると、2017年の半ばにそれまでのショート超過からロング超過に転じ、足元でさらにロングの超過幅が拡大していることがわかります。ユーロドルの推移と比較すると、ユーロドルの上昇が始まった時期とロング超過に転じた時期が合致していることがわかり、投資家の欧州経済とユーロドルに対する思惑が徐々に変化していったことが見て取れるかと思います。
今後のごく短期的な注目点としては、ユーロドルが1.25に到達するかどうかですね。
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[…] 2018年初のドル安(なぜこれほど強烈にドル安なのか)に注目していたときは1.21台後半あたりでしたので、ほとんど水準は変わっていません。ドル円は110円台から106-7円台に下落していて、日銀の追加金融緩和が望めないなかで株安の圧力を受けて円高になっています。それでも、依然として107円付近にいるのは、よく持ちこたえているという感じです。 […]