米利上げ、年内2回か3回か
6月利上げに向かうFOMC
5月1-2日に開催されたFOMCでは市場の予想通り政策金利が据え置かれました。5月4日に発表された米雇用統計は、雇用者数の増加は市場予想の19.2万人増に対して16.4万人増と下回る結果となりました。一方で、失業率は3月の4.1%から4.0%へと低下という市場予想に対して労働参加率の低下の影響もあり3.9%まで(17年反ぶりの低水準)低下しました。時間当たり平均賃金は、前月比0.1%の伸びにとどまり、市場予想を下回りました。
ロイター:FOMC声明全文
FOMCでは、緩やかな利上げペースを続ける方針が維持されました。インフレは目標である2%付近にあり、引き続きこの水準を維持するとの見通しです。3月にはあった経済見通しへの自信(The economic outlook has strengthened in recent months.)を示す文言は、第1四半期のGDPが鈍かったせいか、削除されました。一方で短期的なリスクを指摘する文言(Near-term risks)が削除されており、全体として無難な内容で景気への判断はそれほど変えてないと思われます。
今回のFOMCで特に注目されたのが、インフレの目標について「対称的な(the Committee’s symmetric 2 percent objective)」という文言を追加した点です。これを受けてBloombergでは以下の評価をしています。
金融当局は「対称的な」目標という文言を加えることにより、目標である2%を超えるインフレを進んで許容する姿勢を示唆した可能性がある。
率直に言ってよくわかりません。4月末に発表された3月のコア個人消費支出(PCE)価格指数(FRBが参照する物価指数)は、前年比1.9%の伸びとなり、2月の同1.6%から加速しましたが、これは3月のFOMCでも指摘されていた前年の携帯料金の値下げの影響によるテクニカルなもので、「利上げ見通しを変える要因にはならない」と言われています。そのあたりのテクニカルな要因を考慮して、単純にコアPCE価格指数だけを見て利上げペース加速ではないですよ、という意味で入れただけなのでは、と思います。
物価指標という視点では、4月27日に発表された第1四半期の雇用コスト指数(ECI)が前期比で0.8%上昇となり、市場予想(0.7%)を上回っています。賃金・給与(前期比0.9%、前年比2.7%上昇)は2007年1-3月以来の大幅な伸びとなっています。こちらの指標からすると、雇用市場の好調さが賃金上昇圧力となっていることがわかります。
無難なFOMCの内容と雇用統計を総合すると、利上げペースを加速させることはなさそうですが、とりあえず6月は利上げがありそうです。既に6月と9月の利上げは織り込まれていて、12月も40%程度織り込まれているようです。依然として「あと2回か、3回か」という判断は分かれています。雇用統計後は「(賃金の数値から)利上げペース加速無し」ということで米株市場は上昇したようです。
FOMCの2018年の利上げは残り2回か、3回か
私はあと2回だと考えています。
理由は、直近の経済指標が鈍化してきたから。インフレが2%程度にとどまっている限り、FOMCとしては利上げを急ぐ必要性は高くないと思いますので、足元で不透明感が強まっていることなどから、慎重に慎重に、影響を見極めつつ利上げを進めていくと思います。
米国の代表的な景況感指数であるISM製造業景況感指数は、以下のとおり4月に57.3まで鈍化しています(市場予想は58.5)。たしかに労働市場の逼迫と賃金の上昇はインフレに対して懸念すべき要因ですし、足元の景況感の悪化は貿易摩擦への懸念によるところが大きいと思いますので一過性の鈍化になる可能性はあります。しかし、貿易を巡る問題の解決は時間を要しますので、懸念を払拭するまでは利上げペースの加速を打ち出すことは難しいでしょう。
欧州の景況感指数も、年初からの減速感が目立ちます。また、ドイツのZEW景況感指数も鈍化していて、4月の期待指数はマイナス8.2と市場予想のマイナス1を下回りました。ZEWは米国との貿易摩擦を指数低下の要因としてあげていますが、4月の現状指数も87.9と3月の90.7から低下しています。
欧州の金融正常化はどうなる
ECBは3月の理事会で緩和バイアスを解除、4月の理事会では特段の変更なく直近の景気減速の可能性について議論したとのこと。9月末までを予定している債券買い入れプログラムはいよいよ終わりそうですが、その後の利上げは2019年になるという見方が大勢となっています。
ECBとしては、以下の中銀総裁の発言からもわかるとおり、量的緩和終了後のインフレが想定通り上昇していくか、懸念があるようです。3月に緩和バイアスを解除した時点のインフレ見通しは、2018、2019年が1.4%、2020年が1.7%となっていて、2020年までインフレが目標に届かない予想になっています。
景気が堅調ななかで金融政策の正常化を進めていこうとしていますが、フィンランド中銀総裁のようにインフレについて慎重な見方も多いようで、正常化は慎重に進められていくことは間違いないでしょう。
3月27日のフィンランド中銀総裁の発言
ロイター:ECBは忍耐必要、低インフレ続く可能性=フィンランド中銀総裁
ユーロ圏の基調インフレは経済が堅調だとしても引き続き予想を下回る可能性があり、ECBは景気刺激策を解除する上で忍耐が依然必要
ユーロ圏のインフレ率は、超緩和政策なしでECBの物価安定目標が達成できた時点で、持続可能だ
経済のスラック(需給の緩み)解消が過去のようにはインフレ上昇につながらない可能性があることから、基調インフレは引き続き予想を下回る可能性がある
5月2日のドイツ連銀総裁の発言
ロイター:ECB来年半ばの利上げ着手との観測、なお現実的=独連銀総裁
ユーロ圏の景気拡大が終焉するとの懸念は過度に膨れ上がったものであるため、ECBが来年半ばに向けて利上げを行っていくとの観測はなお現実的である
ユーロ圏経済は米経済よりも好調となっているため、ECBはFRBのように買い入れ策終了から最初の利上げまで1年間待つ必要はない
為替(EUR/USD)への影響は
2018年初までは欧州の景気回復が顕著ななかでEUR/USDは上昇してきましたが、1.25を超えきれずに1.20を割り込む水準まで下落しました。
欧州の金融正常化は、ドイツ連銀総裁の思惑もありつつも緩やかに進めるしかない状況にありますので、米国が少なくとも年3回程度の利上げをするなかでEUR/USDが1.25を超えることは容易ではないでしょう。
以下の記事でも指摘したとおり、IMM通貨先物のEURネットロングが大きく積み上がっていることも、EURの重石になると思われます。
米国が利上げを進めていくことや利上げペースが加速することによる影響も懸念されますが、LIBOR3mが2.36906%(5/4)まで上昇し、米国2年国債利回りも2.4969%(5/4,Bloomberg)まで上昇するところまで利上げが織り込まれている現状では、利上げペースが若干加速しても大きな影響が出るとは考えにくいです。
そういう意味では、年内の利上げがあと2回でも3回でも、徐々に織り込ませていくFOMCの現在のスタイルでは為替への影響は大きくないでしょう。